EDAC 会報誌、「EDAC ドローン活用情報」は、不定期発行となります。全国の自治体およびEDAC会員に無料配布しております。
鳥獣被害対策とICT、IoT、ドローン等の新技術活用の推進
農林水産省 農村振興局 農村政策部 鳥獣対策・農村環境課 鳥獣対策室 課長補佐 大山 雅司
野生鳥獣の生息域拡大や人手不足により深刻化している農作物被害。国でも特別措置法に基づき、自治体に対して総合的な支援を行っている。そのカギとなるのがテクノロジーだ。ICTやドローンの導入について、農林水産省の大山雅司課長補佐に話を伺った。
【鳥獣対策室の概要】
鳥獣被害防止特措法に基づき市町村の被害防止策を支援
―鳥獣対策農村環境課鳥獣対策室の概要をお聞かせください。
烏獣による被害が農林水産業に対する被害に加え、人身被害や交通事故の発生等広域化・深刻化してきたことを受け、 平成19年に「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律(鳥獣被害防止特措法)」が制定されました。農林水産大臣が示した基本的な指針をもとに市町村が被害防止計画を作成し、その取り組みに対して国が財政面等の各種支援措置を講じることになっています。
鳥獣対策・農村環境課は農村地域の資源や環境に関する業務を広く担っており、このうち鳥獣被害防止特措法に基づく鳥獣による農作物被害の防除及び捕獲烏獣の利活用の推進に関する業務を専門的に行うために、烏獣対策室が設けられています。
―市町村や都道府県の鳥獣対策に対する具体的な支援の事例は。
財政面の支援措置である「鳥獣被害防止総合対策交付金」は、有害鳥獣の捕獲や被害防除(罠や防護柵の設置、追い払いの実施、忌避資材の導入)、生息環境管理(野生動物のエサとなる放任果樹の除去や隠れ場所をなくするための緩衝帯の設置)、有害鳥獣の生息状況調査、最新の被害防止技術・手法の実証・確立、捕獲の担い手を育成するための研修や講習会等、様々な取り組みを対象としています。また、捕獲した鳥獣を処理加工するための施設の整備、さらに、ジピエの利用拡大に向けた処理加工や衛生管理技術の向上、需要拡大のための普及啓発活動に対しても支援の対象となります。
さらに、捕獲活動、防護柵や緩衝帯の設匿、追い払い等の被害防止施策を実施するために市町村が設置する「鳥獣被害対策実施隊」に対しては、非常勤公務員としての報酬の支給、活動中に発生した災害に対する補償、活動経費に対する特別交付税措置、狩猟税等にも優遇措饂を設けて、現場の効率的かつ効果的な鳥獣対策を支援しています。
―野生鳥獣による農作物被害の実態について教えてください。
平成30年度は、被害面積5万ha ・被害量50万トン・被害金額158億円となっており、近年は対策の成果もあって、ピークであった平成22年度(被害金額239億円)と比べると減少傾向で推移しています。しかし、鳥獣被害は営農意欲の滅退、耕作放棄離農の増加、森林の下層植生の消失による土壌流出被害等も誘引するため、数字に表れる以上に深刻な影響を及ぼしています。
【鳥獣対策とテクノロジー】
鳥獣対策分野におけるICT、loT、ドローン活用等
―テクノロジーの活用についてお聞かせください。
鳥獣対策におけるICT機器の代表的な例はセンサー付きの罠や檻です。有害鳥獣が罠や檻にかかるとセンサーが感知してPCや携帯端末に通知が送られます。どこの罠・檻にかかったのか、位置情報まで明確にわかるので、見回りの労力が省力化されるほか、迅速に対処できることも利点です。罠にかかった動物を長時間放っておくと、肉質が低下してジビエに利用しにくくなりますから。
さらに応用として、センサーに獣種や大きさ等を予め設定し、狙っている動物をピンポイントで捕獲したり、群れのなかの1頭だけではなく群れ全体を感知したうえで、自動的に全頭捕獲したりする仕組みも開発され、既に実用化されています。逃した動物は罠を学習し捕まらなくなってしまうので、同時に捕獲することが重要なのです。
電気柵は、除草をしっかりしないと雑草の生長による漏電のほか、獣の追突等による破損により農作物の被害につながる場合があります。柵にセンサーを取り付け、電圧に異常があったときに通知が送られるシステムもあり、こちらも電圧管理のための定期的な見回りの負担を軽減してくれます。
―ドローン活用についてはいかがですか。
主には、高感度の赤外線カメラをドローンに搭載してシカやイノシシの個体数や生息域を把握する調査に活用されています。また、ドローンにスピー カーや照明を取り付けて音や光で鳥獣を追い払うという活用法もあるのですが、鳥獣は見慣れないものに対しては警戒するので一時的な効果はありますが、音や光には慣れたり、学習能力が高いので害を与えないことがわかってしまうと、それだけでは継続的な効果は見込めなくなります。
農業関係全体でいうと現状のドローン活用は農薬や肥料の散布がメインで、作付けや生育状況の確認にも使用されています。鳥獣対策分野では活用され始めてから間もないので、まだこれからの段階にあると思っており、今後に期待しています。
―実態把握、防護、捕獲等、あらゆるシーンでテクノロジーが使われているのですね。
そもそも鳥獣対策には3つの柱があり、まず対策すべきは放任果樹、廃棄野菜やひこばえによる無意識の餌付けを行わないこと、農地の周辺に動物の隠れる場所を作らないこと(生息環境の管理)。次に防護柵を設置して農地に入らせない(侵入防止)、それでも近づくようであれば罠・檻で捕獲する。この取り組みをセットで考える必要があるのです。
農村地域では高齢化・過疎化に伴って担い手不足が深刻 になっており、労力の軽減や効率化を進めるためにもテクノロジーは不可欠です。また、平成25年に農林水産省と環境省で策定した「抜本的な捕獲強化対策」では、令和5年度までにニホンジカとイノシシの個体数を半減させることを目指しています。この目標を達成するためにはさらに捕獲の強化を図らなければならないので、今後ますますICT等を活用した被害防止策を推進していく必要があると考えています。
【今後の展望とメッセージ】
有効なICT機器を活用しながら基本知識の共有や地域間連携を
―先端技術を活用した鳥獣対策への期待や課題感については。
さまざまな機器が開発されている一方で、実際に導入している現場はまだ少ない印象です。運用や管理に対する不安、効果に疑問があるといった理由から導入を見合わせているケースも少なくないようなので、実証を重ねながらさらなる研究開発を進めていく必要があると思います。また、新しい技術も現場の人が使いこなせなければ全く意味がないので、農村地域で継続的にICT等の技術を活用していくためには、操作性と実用性が求められるでしょう。
誤解してはいけないのが、烏獣対策ではICT機器を導入すれば問題が全て解決するわけではないということです。交付金は、機器を本当に有効に使いこなせるのか実証することも支援対象になりますので、必要な機器を見極めたうえでの導入が必要です。
―自治体等、鳥獣対策に関わる方々へのメッセージ をお願いします。
放任果樹を無くす、生育環境を管理する、正しく柵を張る等、鳥獣対策の基本的な知識の浸透が必要です。また、鳥獣対策は地域全体で取り組むことが大切です。現場に一番近い市町村が主体となり、専門家を呼んで、被害状況や生息状況を確認したうえで、座談会や勉強会を開く等の取り組みを推進してほしいと思います。そして、鳥獣害対策とはどういうものなのかを農家の方々に知ってもらい、専門家を交えて地域でどのような対策に取り組むのが良いのか検討することが必要と考えます。農林水産省HPの「鳥獣被害対策コーナー」に、全国各地の鳥獣対策の専門家や、捕獲・生息管理等に係る機器、研究機関等の情報を載せていますので、ぜひご活用ください。
最後に、鳥獣害対策は地域全体で取り組むことが大切と言いましたが、更に言えば、市町村が単独で行っても隣接する地域に逃げてしまうだけ…というケースもありますので、今後は、広域的な取り組みを行う必要があると考えています。地域の被害や野性動物の生育状況等を踏まえて、隣接する市町村が相互に連携・協力しながら被害防止対策を実施するのが望ましいでしょう。
(取材日/2020年8月20日)
農林水産省農村振興局
鳥獣対策・農村環境課(鳥獣対策室)
〒100-8950東京都千代田区霞が関1-2-1
TEL/03-3502-6041
URL/https://www.maff.go.jp/
vol.9
自治体の広域連携がもたらす 地域課題の解決、 未来技術の社会実装
東三河ドローン・リバー構想推進協議会
[インタビュー]
防災拠点整備とドローン物流で美郷町を災害に強く便利な町へ
島根県美郷町役場 情報・未来技術戦略課/漆谷 暢志
職員によるドローン橋梁点検“君津モデル”で市内の橋の安全を守る
千葉県君津市/建設部 道路整備課 齋藤 優次 三幣 亮/企画政策部 政策推進課 重田 友之
1台のドローンをマルチユースに。物流、農業、レスキューなどに対応するアタッチメントの搭載で、利活用のフィールドを広げていく
株式会社ニックス/代表取締役社長 青木 一英
自動配送ロボットが創る日本の未来物流課題・地域課題の解決へ向けて─
経済産業省 商務・サービスグループ 物流企画室/室長補佐 神田 浩輝 係長 濱野 佳菜
自動配送ロボットによる複数箇所への配送がルート最適化技術で実現
岡山県玉野市役所 公共施設交通政策課/課長 新 仁司 主査 甫喜山 昇平
vol.8
物流産業における 持続可能な未来――。ドローンはその一翼を担う
国土交通省 総合政策局 物流政策課 物流効率化推進室長 小倉 佳彦
[インタビュー]
クリ“ミエ”イティブ圧倒的当事者意識をもって挑む三重県のあったかいDXのその先へ
三重県 デジタル社会推進局 デジタル事業推進課 新事業創出班/ 課長補佐兼班長 加納 友子 係長 伊藤 祐介
“一か八か”ではなく確かな情報をもとに判断を下す大和市消防本部の挑戦
大和市消防本部 警防課/主幹兼警防係長 消防司令 大内 一範 施設係長 消防司令補 小林 裕之
自治体×地元事業者が主体となる。これこそ地方DXの理想形
長野県伊那市役所 企画部 企画政策課/新産業技術推進係長 安江 輝
国内初・人口集中地区でドローン配送実証。イノベーションを支援し、ベンチャースピリッツで邁進する
新潟県新潟市経済部 成長産業支援課/課長 宮崎 博人
スマートシティ加賀構想と未来都市の「空の安全」を守るドローン管制プラットフォーム
石川県加賀市 政策戦略部スマートシティ課/松谷 俊宏
vol.7
見据えるのは「ビヨンド・レベル4」ドローンが当たり前にある 社会のために
国土交通省 航空局 大臣官房参事官 次世代航空モビリティ企画室 成澤 浩一
[インタビュー]
ドローン特区指定に向けた歩みと純国産ドローン開発という2大構想の実現に向けて
宮城県大郷町/町長 田中 学
山間部、一級河川、リアス式海岸…圧倒的な自然に立ち向かう!佐伯市消防本部のドローン利活用
大分県佐伯市消防本部 通信指令課/消防司令補 山口 泰弘
ドローンによる社会貢献と業界のより良い発展に尽力し新しい時代へ
株式会社プロクルー/代表取締役 松本 茂之
欠航続くと鉛筆1本届かず…離島の生活・教育格差をなくすドローンの可能性
沖縄県竹富町 政策推進課/課長補佐 兼 商工係長 横目 欣弥
国内初!「ドローン×AI×遠隔情報共有技術」を用いた密漁等の監視・抑止システムが本格運用。海で培った最先端技術を多岐に活かす
株式会社エアーズ/代表取締役 小豆嶋 和洋
vol.6
空モビリティが日常になる風景が 産業構造にもインパクトをもたらす
経済産業省製造産業局産業機械課 次世代空モピリティ政策室 係長澤田隼人 コミュニティマネージャー小菅隆太 X 一般社団法人EDAC 事業推進部長渡邊研人
[インタビュー]
人材育成と普及啓発を二本柱に消防活動におけるドローン活用を推進
総務省消防庁消防・救急課 総務事務官 五十川 宏
曽於市loT実装計画から見るスマート自治体の出発点と展望
鹿児島県曽於市 企画課 企画政策係 係長 宇都 正浩
レベル4解禁社会実装に向けた兵庫県の中ローン先行的利活用事業」
兵庫県庁 産業労働部 産業振興局 新産業課情報・産学連携振興班 香山 和輝
消防防災体制を強化、都市部でのドローン利活用を推進していく
名古屋市消防局 消防部 消防課 計画係 消防司令補 上地 智樹
教育・エンターテイメント分野からドローンの普及と発展を支援
株式会社オーイーシー 執行役員 野崎 浩司
vol.5
鳥獣被害対策とICT、IoT、ドローン等の新技術活用の推進
農林水産省 農村振興局 農村政策部 鳥獣対策・農村環境課 鳥獣対策室 課長補佐 大山 雅司
[インタビュー]
ドローン前提社会・テクノロジー活用で社会課題の解決に挑む
神奈川県庁 政策局 未来創生課 課長 杉山 力也
ドローン×Hec-Eye 小谷村が実施した野生鳥獣調査の全容
長野県小谷村 観光振興課 農林係 主事 小林 慶士
『Hec-Eye』で実現する地方自治体の防災力強化 平時活用が実践の鍵
株式会社リアルグローブ 営業部 部長 渡邊 研人
空の道が最後の砦に。非常事態を想定し役場として万全な対策を
和歌山県印南町 総務課 主査 坂口 哲之
測量・建設の技術者が見る 最新テクノロジーの活用と未来
株式会社島内エンジニア 技術第三課 課長 中川 和樹
防災広場の平時利活用 せんごくの杜ドローンフィールド
貝塚市役所 政策推進課 参事 横井 伸朗/主査 辻本 健一様/主査 仮屋 良太郎
コロナ特別号 with / after コロナ時代のドローン新活用
EDACでは、年々広がりを見せるドローン等を活用した課題解決の取り組みを推進すべく、自治体や企業等によるドローン等先端技術の利活用事例を取材し、EDAC会員の皆様へ会報誌として展開しております。 この度、11名の識者によるwith / after コロナ時代における新たなドローンの活用や展望についてまとめた会報誌特別号を発刊いたしました。通常はEDAC会員の方にのみお送りしておりますが、新たなドローン活用の普及展開のため、今回は特別に下記のサイトよりお申込みいただいた方にも有料にてお送りいたします。
コロナ特別号 with / after コロナ時代のドローン新活用 販売サイト